オランダ黄金時代
カルヴァン主義のオランダでは、教会が絵を飾らなくなりました。最大の発注主が消えたのです。ところがそこで絵は減らず、買い手が入れ替わりました——教会と王侯のかわりに、商人や職人が自分の家に飾る絵を買いはじめたのです。だから主題も変わります。聖書の場面でなく、風景、静物、台所、手紙を読む女性。市場が変われば、描かれるものが変わる。美術史でいちばんはっきりと、それが見える場所です。その市場の大きさが、数字にすると少しおかしなことになります。17世紀の100年間に、この国で描かれた絵はおよそ500万点から1000万点と見積もられています(推計には幅があります)。とくに1640年から1659年までの20年間だけで130万点から140万点。当時のオランダの人口は、200万人ほどでした。ひとりに一枚どころではない数の絵が、家に飾るために描かれ、売られていたことになります。そして、もうひとつの数字。それらのうち、いま残っているのはおよそ1パーセントです。私たちが「オランダ黄金時代」として見ているレンブラントやフェルメールは、生き残った1パーセントのほうなのです。この地図に並ぶどの帯も、たぶん同じことが言えます。残ったものを見て、時代の顔だと思っている。もうひとつ書いておくと、ここで主役になった風景・静物・台所の絵は、のちにフランスのアカデミーが序列のいちばん下に置いた主題でした。順位が決まるずっと前に、順位のいちばん下だけで成り立っていた国があったわけです。