エジプト美術
横顔なのに目は正面、肩も正面。エジプトの絵は「見えたまま」ではなく「そのものが最もよく分かる角度」を組み合わせて描きます。見え方より、変わらないことのほうが大切だったからです。おどろくのはその続きで、この約束事はおよそ3000年のあいだ、ほとんど変わりませんでした。この地図に並ぶ様式の多くが数十年で移り変わったことを思うと、桁がちがいます。変わらないことを選び続けた美術というものが、たしかにありました。ただし、3000年に一度だけ例外があります。前1353年ごろから1336年ごろ、アクエンアテンという王の時代です。太陽神アテンだけを拝む信仰へ切り替えたこの王のもとで、絵と彫刻の約束事まで一緒に変わりました。人の体は細長く伸ばされ、顔には表情が入り、王が妻や子と戯れる場面まで彫られます。何千年も動かなかったものが、20年ほどのあいだ、はっきり動いた。そして王が死ぬと、ツタンカーメンの時代にはもう元へ戻されました。変わらないことを選んだ美術に、一度だけ、20年の逸脱があったわけです。しかもそれは、宗教が変わったから起きました。何を信じるかが変わると、人のかたちの描き方まで変わる。この地図の最初のほうで、それが一度だけ実験されています。