体験の芸術
いま美術館に行列ができているのは、たいていこの帯です。始まりは1965年、草間彌生の『Infinity Mirror Room — Phalli's Field』でした。鏡張りの部屋に無数の突起を並べ、観客が中に入る。絵の前に立つのではなく、作品の中に入ってしまう。同じ1965年に、ミニマリズムとコンセプチュアル・アートが始まっています。1968年にはランド・アートともの派。1960年代の後半に、美術がいっせいに「もの」から「場所」へ出ていったことになります。爆発したのは2000年代でした。2003年、オラファー・エリアソンがテート・モダンの巨大な吹き抜けに人工の太陽を吊るします(『The Weather Project』)。会期中の来場者は約200万人。床に寝ころんで天井を見上げる人の写真が、世界中に出回りました。2006年にはアニッシュ・カプーアの『クラウド・ゲート』がシカゴで正式公開。通称「豆」。2010年、マリーナ・アブラモヴィッチはニューヨーク近代美術館で、736時間半ずっと椅子に座り、向かいに座った人と黙って目を合わせ続けました。2018年に東京で開いたteamLabの『ボーダレス』は、2019年の1年間で219万人を集め、単独の作家・集団の美術館として世界最多とギネスに認定されています。名前の話も書いておきます。「インスタレーション」は、美術館が展示物を「設置する(install)」という業務の言葉から移ってきたものでした。批評家が投げつけた悪口ではありません。この地図の第一の発見が、ここでは成り立ちません。