北方ルネサンス
アルプスの北にも、同じ時代に別のルネサンスがありました。北の画家たちは油彩を磨き上げ、髪の一本、真鍮の反射までを描き切ります(ファン・エイクが油彩を「発明した」という有名な話は、ヴァザーリ由来の言い伝えで、実際には中世からある技法を体系として完成させた、というのが今の理解です)。その油彩がイタリアへ南下し、入れ替わりに遠近法と人体の理解が北へ上る。デューラーは二度アルプスを越え、持ち帰ったものを版画に刻んで大量に配りました。この帯の水路は、最初から双方向です。北の細かさがどこまで行ったかは、一枚の絵の奥にある小さな鏡で分かります。ファン・エイクが1434年に描いた『アルノルフィーニ夫妻』。部屋の奥の壁に、丸くふくらんだ鏡がかかっています。そこには夫妻の背中と、部屋に入ってくる二人の男が映っている。片方は腕を上げています。そして鏡のすぐ上に、画家の署名がある。あの鏡の中の男はファン・エイク本人ではないか——この問いは、所蔵するロンドン・ナショナル・ギャラリー自身が立てているものです。描いている人が、描かれた部屋の中に小さく映り込んでいるかもしれない。油彩という新しい絵の具は、そこまで細かいものを持ちこたえられるようになっていました。