いま
ここから先は、まだ誰にも分かりません。2018年にはAIが描いた肖像画がオークションで43万ドルを超え、2021年にはNFTの作品が6,930万ドルで落札されました。2022年にはアメリカの品評会で、AIで作った絵が1位を取っています(審査員はAI製だと知らされていませんでした)。数字はどれも事実です。でも、これらが美術史の様式として残るのか、ブームとして通り過ぎるのかは、いま生きている僕たちには判定できません。この地図がお手本にしたBarrの系譜図も、本人が何度も描き直し、決定版とはしませんでした。だからこの一番下のノードは、空けたまま置いておきます。何年か経って、ここに名前がつくのを楽しみにしています。たぶんその名前も、誰かの悪口から始まるのでしょう。ここで、「現代アート」という言葉についても書いておきます。この地図に「現代アート」というノードはありません。書き落としではなく、これがこの地図の答えです。現代アートは様式の名前ではなく、「まだ名前が決まっていないもの」の仮の呼び名だからです。ゴシックも、印象派も、キュビスムも、生まれた瞬間はぜんぶ「現代アート」でした。名前がつくのは、いつも後です。いま現代アートと呼ばれているのは、およそこの地図の下3分の1——抽象表現主義からこのノードまでの全部にあたります。しかも、どこから「現代」なのかさえ、まだ決まっていません。1945年からとする人も、1960年代からとする人も、1989年からとする人もいます。区切りの線すら、まだ引かれていない言葉です。つまり、あなたがいま見ているこの辺りは、100年後の地図では別々の名前で呼ばれているはずの場所です。ひとつだけ、この地図自身にかかわる話を書いておきます。ここでは画像を灯すかどうかを「誰が権利を持っているか」で決めています。ところが2023年、アメリカの著作権局は、生成AIがつくった画像そのものには著作権を認めない、という判断を出しました(『Zarya of the Dawn』の件。文章と、選び方・並べ方には著作権が認められ、画像だけが外されています)。誰のものでもない絵が、いま毎日、大量に生まれているわけです。美術館が開放したものだけを灯す、というこの地図の掟は、そういう絵をどう扱うのか、まだ決めていません。分からないことを分からないまま置いておけるのも、地図のいいところだと思っています。