新版画と創作版画
明治で浮世絵の版元は次々と店を畳みました。写真と印刷が仕事を奪ったからです。ところが木版は、20世紀に二つの姿で戻ってきます。しかもその二つは、仲がよくありませんでした。ひとつは「創作版画」。1904年、山本鼎の『漁夫』が起点とされます。掲げたのは「自画・自刻・自摺」——下絵から彫りも摺りも、ぜんぶ一人でやる。西洋から入ってきた「作品は作家一人のもの」という考え方を、木版に持ち込んだのです。もうひとつは「新版画」。1915年ごろから版元の渡辺庄三郎が動きます。こちらは絵師・彫師・摺師・版元の分業をそのまま残し、そこへ遠近法と陰影という西洋の技を足しました。川瀬巴水の雨や雪、吉田博の山と海は、この仕組みから生まれています。1930年代、両者はぶつかりました。創作版画の側は「一人でやらなければ芸術ではない」と言い、新版画は職人の商売だとされたのです。おもしろいのは、その後の届き方です。新版画は最初から海外を向いていて、実際に海を渡りました。建築家フランク・ロイド・ライトは浮世絵の大収集家で、一時は建築より版画の売買のほうが実入りがよかったほどです(メトロポリタン美術館へ約400点を売った記録も残っています)。そして川瀬巴水を愛したもう一人が、スティーブ・ジョブズでした。生涯で集めた版画のうち25点が巴水だったと言われ、2021年の日本での巴水展には彼のための一角が設けられています。あの製品たちの静かな面と余白は、たぶんここと地続きです。